5月の野山に草おどる。その香りで災いを追い払え。
今月のお菓子「粽(ちまき)」は、笹(ささ)で米の団子を包んだ端午の節句の行事食です。この日は家の軒に菖蒲(しょうぶ)と蓬(よもぎ)を飾る風習もあって、粽を結わいた藺草(いぐさ)をほどくうちに、指先まで青い香りと色に染まるようです。
粽のきりっとした円錐(えんすい)形は菓子職人さんの技。お店にとって、年に一度の仕事は伝承の場にもなっています。
笹は暮らしに身近な植物ですが、不思議でいっぱい。50年、100年と種類ごとに天寿があって、花を咲かせるのは一度きり。たねを残すと根こそぎ枯れていく。しかも開花は、声を掛け合うかのように広い範囲で一斉に起こるのだと、秋田県立大学教授の蒔田明史さんに教わりました。
「開花のシグナルを握る遺伝子があると考えられる。笹自身が時を、正確に刻んでいるのです」。蒔田さんは学生時代、滋賀の比良山系で「イブキザサ」の開花に遭遇。笹の盛衰を見届ける生活史の研究につながります。
笹が枯れた跡は別の植物が勢力を伸ばし、成長してきた笹に十数年で逆転される。生物の共生に平和を重ねるのは人間の願望で、「現実の植物は自分の生をひたむきに生きている。人間が笹を利用できたのも、笹が多様で里山の環境に適応した種類があったからです」。風流と思っていた笹のダイナミズムです。
イネ科である笹の実は、米のように栄養価に富み、飢饉(ききん)を救う記録が古文書にあるそうです。めったに実らないのに。人の知恵も、また不思議です。(編集委員・長沢美津子)
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銘 粽 上新粉(米粉)を蒸して作る甘い団子の生地を3枚の笹で包み、藺草で結んでもう一度蒸す。白と黒砂糖の黒の2種。
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協力:今西善也 京都祇園町「鍵善良房」15代主人。
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル